雲に誘われて

空を見上げる機会が減った気がする。あわただしい日常に囲まれていると、一息ついているときでもスマホを見ている気がする。スマホを置いて空を見上げてみよう、悩み事も大したことない気がする。

なんとなく、天国は明るい空の上にあるというイメージがある。
僕たちは飛行機で雲の上までは行けるが、そこに天国はない。
でも、真っ暗な宇宙まで上がると、天国のイメージとはちょっと離れてしまう。
天国は大気圏と宇宙の間にあるのかなと思いながら、ぼんやりと大人になった。

先日、大切な人がなくなった時
旅立ってからまもないその人が、まだ近くにいるような気がして
空のよく見える場所に出かけた。
小説によくあるように、声が聞こえたりすることはなく
ただ静かに澄んだ山県の空が、目の前に広がっていた。

ふと思った。
今この瞬間に、空を見上げている人はどのくらいいるのだろう。

僕のような気持ちで空を見上げている人。
飛行機を見つけて目を凝らしている人。
星を数えている地球の反対側の子ども。
嬉しいことを、空の向こうに伝えている人。
お昼休みに、雲をぼんやり見ている人。
テストが全然できなくて、窓から空を見上げる学生。

みんなの気持ちを、空は悠然と受け止めている。

立ち上がり、草を払って車に戻ると
フロントガラスの向こうに、僕を誘うかのように並ぶ雲が見えた。
それを道標にして、とりとめもなく、車を走らせてみた。

山県はるうらら

空にうたえば