やまがた、春うらら

気が付けばもう春、そんな言葉をいつになく感じる2020年春。「春待つ春の日」という言葉が駆け巡る中、大好きな山県を訪れると、また人の温かさに、やられてしまいました。

「わざわざ来ていただいて。ありがとうございます」

春のような匂いのする玄関で
おばあちゃんの口から
柔らかく紡がれた言葉を聞いた瞬間
、 僕の心は、ほどけてしまった。

急遽の取材で向かったおんせぇよぉ~は
事情によりお休みだったにもかかわらず、
おばあちゃんは鍵を開けに来て
ニコニコと僕らを迎えてくれたのだ。

僕は心がほどけてしまった後、
どう戻していいかわからず
ちょっと呆けたような顔で「いえいえ、こちらこそ・・」と
かすれた声を絞り出した。

* * *

ともすれば僕らは忘れがちだけれど
温かい言葉をかけると、温かい言葉が返ってくる。
仕事中、テキパキと言葉をかけると
相手からもテキパキと言葉が返ってくる。
(返ってこない時もある)

明るい言葉は周りを笑顔にし、
暗い言葉は、あっという間に広がる。

そう、人は
、 周りの人と「空気」をつくって生きている。

そして言葉ひとつ選ぶだけで
その「空気」の色合いを変えることができるのだ。

言葉は、力だ。
その力を左右するのは、語気と、
発する人そのものだ。

* * *

「はいどうぞ。こっちですよ」

おばあちゃんの声で我にかえる。
心だけでなく、足も軽くなったような気がする。

熟練の技に、
僕はふわふわにされてしまった。

柔らかい日の差す廊下を
みんなでぞろぞろと
おばあちゃんの小さな背中についていく。

山県はるうらら

春待つ春の日