

山で楽器を弾くって、結構寒い。/音楽家 堀田壮一郎
いつもと違う環境で、音楽の輪を広げる、音の旅。各地の音楽家が山県を訪れ、山の中で楽器を弾いたり、人との交流を通して、音楽の輪を広げていきます。1回目は町田の音楽家、堀田壮一郎と山県を旅しました。

その日は、前日急速に発達した低気圧の影響で、日本列島全域が冷たい空気で覆れていた。そんなキーンと張りつめた冬のある日。
音楽家、堀田壮一郎。
今日もリハーサルなので、いつも通り楽器を持ってスタジオへ向かったはいいが、友人に誘われるまま行先も知らず町田を出た。電車を乗り継ぎ、たどり着いた場所は岐阜県山県市。目前に山が迫り、川を流れる水の音がごうごうと聞こえてくる。雪の上を歩く音も東京と全然違うんだな、とその耳触りに夢中になった。なんとなく持っていたギターを取り出しチューニングしてみる。
普段は昼夜逆転のめちゃめちゃな生活で、一階より地下一階が好きとか思ってる自分が、こんな緑もりもり山の中で楽器を弾いてるって不思議な感じだ。ライブハウスってすごく好きな場所だけど、わりと閉鎖的。天井が低かったり圧迫感があるとこも多いし。
そういうライブハウスで演奏することがほとんどだけど、夏場はフェスとかお祭りで野外の演奏もあったりする。こうやって外で音を出すと、ふと去年の夏を思い出したりしもする。

ただ、ここは開けた場所だからと言って野外ステージとだいぶ違うな。
それは外に向けて思いっきり弾くって感じじゃなく、逆に自分にだけ聴こえるように、自分のために響く音楽で、それはやまびこがあちこち反射して返ってくるのに似てる。山で聴こえる音は全然違うんだって何となく悦な気持ち。
ギターと一緒に持ってきたカホンの音も乾いた空気によく響く。こういう時の高い倍音って気持ちよくて開放的で、呼吸がすっと楽になる気がする。こころなしか、ハートもポカポカしてくる。

そういえば松岡修造の言葉に、「自我を捨てろ。雪ダルマになれ」という言葉があったのを思い出す。人に楽しんでもらうために雪だるまはあって、それに文句をいう雪だるまはいないという意味らしい。音楽とか表現を仕事にしてるタイプは自我の塊みたいなイメージがあるけど、実際はそんなことない。お客さんを楽しませるのは、雪だるまと同じだ。
でも、雪だるまって寒い中大変だなと思う。本当に寒い。
寒さで、もう指がかじかんで動かない。
無意識にポカポカするハートに手が伸びる。
そして、胸ポケットに入れていたハクキンカイロを思い出した。
ふーっと吐くと白い息。それは神様と出逢えたみたいだった。
