伊自良大実柿とここに暮らす人々との出会いは宝物/金子 悟さん

神奈川県から移住し、地域おこし協力隊としてまもなく3年が過ぎる金子さん。伊自良大実の連柿・柿渋への想いと、山県で出会った人のことを話して頂きました。

伊自良大実柿は伊自良の宝



伊自良は自分の田舎と呼べる場所
山県市地域おこし協力隊の金子悟さん(32歳)は、神奈川県の出身。神奈川の自宅の周りはどんどん開発されていき、田舎がなくなったと感じたそうです。自分の田舎と呼べる場所がほしいと思っていた金子さんにとって、伊自良地区が思い描いていた自分の田舎だったのです。お会いした日は伊自良地区のみなさんと毎月行っている柿渋染の日、たくさんのお母さんたちに囲まれながら、なごやかな空気がそこにありました。



開口一番「宝をひろめたいんです!」と金子さん。岐阜県山県市には伊自良大実柿(いじらおおみかき)という特産品があります。伊自良地区に昔からあるこの柿は、とっても自慢できる宝なんです。その柿の良さを多くに人に知ってもらうために、地域のみなさんといっしょに金子さんは活動しています。

金子さんは、学校卒業後、人前で話すのが苦手だったので、なんとか人前で話しができるようにしたいと思い就職、営業職として働いていました。その後、大手小売店メーカーの店舗で販売員を始め、充実した仕事ができるようになっていきました。しかし常に自分の中には、何が自分に出来るのか?何に幸せを感じたいのか?という葛藤があり、自分自身を見つめながら 仕事の合間に日本中を見て回ります。そんなとき、デニム素材が好きだった金子さんは藍染に興味を持ち、染色の勉強をはじめ、そこで柿渋という染色方法にも出会いました。



そこに柿があったから

自分の田舎と呼べる場所がほしい、自分に何が出来るのかをずっと探していた金子さんが出会ったのが山県市伊自良地区の地域おこし「柿渋」。柿が好き、そして柿渋染めの存在。金子さんは迷わず山県市地域おこし協力隊に入りました。そしてこの場所は自分の幼い頃生まれ育った所に似ていて何か縁を感じたそうです。



「最初この伊自良にきて、まず自分を知ってもらうことが大事だと思いました。この地域の方を知る。そんな気持ちで何でもやりました。農作業から狩猟等まで。地元の方と農作業をしている時、現在の伊自良大実連合会の会長の干し柿を食べたらこれが本当にうまかったんです。これをもっとみんなに広めたい!衣食住で柿をやりたい!と強く思いました。」と金子さんは伊自良大実柿との出会いを話してくれました。金子さんは、柿の木の管理から剪定、消毒等すべて携わっていきたい。

現在、伊自良大実連合会は連柿生産者25件中、5件の方が入っています。個々での販売をしながら、大手の注文対応には連携して出荷をします。まだ連合会発足して日が浅いですが、地域でまとまっていくことで、連柿の認知度を上げていきます。柿栽培の放置した場所も連合会が管理していければと考えています。現状だと獣が里山に進出し被害がでています。放置した場所をできるだけ減らし獣の逃げ場を作り、里山と離れるようにしたいそうです。



また、それ以外にも連柿の生産マニュアルがないので、連合会で作成したいそうです。生産マニュアルがあれば次世代に引き継げることができます。個々での連柿の作り方をひとつにまとめあげていくのは至難の業ですが、それがあることで連柿の安定した供給につながることになるでしょう。連柿が年間を通して販売出来るように考え、最近では冷凍保存して年間試食や商品開発にまわしています。柿渋に関しては元々染色に興味があったので、地元の方と交流を深めながら様々の染めにトライしています。染色体験のイベントも定期的に開催しており地域の方と連携しながら広めています。地域の方の団体名も「柿布尽」(かきふじん=柿の布に尽くす)ちょっと素敵な名前です。柿渋だけでは弱いので、染色したものを加工する部分は専門の方にお願いして、製品の製作も準備中です。例えば、柿渋で染色した糸を織って生地にしたことで独特な風合いの出てくる財布やバッグ、生活関連グッズもあります。これから多くの柿渋染めの製品がここから生まれてきそうです。

これからのあり方

地域おこし協力隊の任期は3年。2017年3月で金子さんは任期終了となります。任期は終わっても、ここ伊自良地区でやりたいことがまだまだたくさんあります。伊自良大実連合会の仕事、柿ZANMAIの仕事を中心にこれからも活動していきます。柿すべてに携わっていきたい!そんな思いで金子さんはここまできました。3年ではやりきれないことですし、今後も様々な問題があると思います。ゆっくりやっていくことと、スピードをもって対処していく両輪があります。ゆっくりやっていくことは柿布尽のメンバーの方の力を借りて染色体験を増やしてみんなに楽しみながら伊自良大実の連柿・柿渋を知ってもらうこと。商品開発はもっと幅広く人に知ってもらう為に早急に進めなければいけないと金子さんは考えています。自分のやるべきことが明確になり目は輝いてます。

そして金子さんの後任として、地域おこし協力隊に任命されたのが加藤慶さん。以前はIT関係の仕事をしており、「何か自分が残すことをしたい」という想いを持って、山県市での地域おこし協力隊を志願しました。加藤さんも今は地域のことを学びながら、いずれは得意とするIT関係で情報発信し伊自良の柿を知ってもらうための様々な試みをしていこうという夢を持っています。



金子さんが地域おこし協力隊として山県市に来て感じたことは、「人がとても重要」だということ。
山県の人たちとの親密なつながりがあったから、ここまで続けてこれたのだと3年間を振り返ります。そんな金子さんを支えるもうひとつの存在である奥様と娘さんがひょっこり顔をだされました。ふたりを柿布尽のみなさんが楽しそうに取り囲んでいます。そんな穏やかで優しい時間がとても微笑ましく、山県の美味しい空気と一緒になり、外はとても寒かったのですが、心がほっこりして気持ちが温かくなりました。

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